次世代経営者インタビュー
#4 社会的ニーズと経験・知識の掛け算で大きなインパクトを
株式会社JMDC
代表取締役社長 兼 CEO
野口 亮氏
Keyword
- JMDC
- コンサルティング
- ヘルスケアデータ
- インパクト
- 主体性
- 超長期目線
「新しい風で日本の未来を切り開く。」
本インタビューでは、次世代の日本を担う若き経営者をシリーズで紹介します。
第4回は、医療ビッグデータを活かしたヘルスケアサービスを幅広く展開するJMDCの野口亮(のぐち・りょう)社長にお話を伺います。医師免許を取得後、コンサルティングファームに入社。バイオベンチャーの経営などを経て、現在に至る野口社長に、長期的に取り組みたい課題や注力する事業領域を見定める際の基準、自身のバックグラウンドを活かしたキャリア構築のポイントなどについて語っていただきました。
日本のヘルスケアに大きなインパクトを与えたい
鳥居 野口社長は医師免許を取得後、コンサルティングファームに入社されたというユニークなキャリアをお持ちですが、どういった理由からそのような決断をされたのですか。
野口 在学中にいろいろなことを経験しようと思い、コンサルティングファームのインターンシップに行ったのですが、それが原体験として非常に面白かったことが理由の一つです。
もう一つは、実習で指導してくださった外科の先生がカルテを書き写す作業で残業されている姿を見て、衝撃を受けたことです。その際、病院は必ずしもオペレーションが効率良く回っているわけではなく、医療従事者の“血と汗と涙”で回っていることを知り、
医療の仕組みを良くすることでヘルスケアに大きなインパクトをもたらしたいと思い、コンサルティングファームを志望しました。
親戚からは、「臨床研修も受けずに、(コンサルティングファームに)行くのか」と怒られましたが、研修を受けると気の迷いが生じると思い、思い切って就職を決めました。
コンサルティングファームでは、製薬会社や医療機関の顧客向けにヘルスケアのプロジェクトを多数担当しました。
鳥居 コンサル業界から実業界に転じ、バイオベンチャーなどを経て、データビジネスを手がけるJMDCに入社された経緯を教えてください。
野口 コンサルの仕事に慣れてきて、新しいチャレンジをしたいと思っている時に、ノーリツ鋼機と出合いました。同社は事業会社でありながら、投資ファンドのように色々なヘルスケアの会社に投資をしていて、コンサルティングやヘルスケアという私のバックグラウンドを活かして携われると面白そうだと思い、ノーリツ鋼機グループ入りを決めました。 JMDCもノーリツ鋼機グループの1社で(当時)、同社の事業ポートフォリオの中でも高いポテンシャルを持っている面白い会社だと思っていたところ、お誘いを受けて移りました。
鳥居 2023年6月にJMDCの社長に就任されましたが、社長のオファーを受けた時の思いや、最初に取り組みたいと思ったことは何でしょうか。
野口 JMDCが扱っているデータはもはや社会のアセットといっても過言ではないぐらいの規模に成長しています。これを活用することで、「日本のヘルスケアを良くしていきたい」というキャリアのスタート地点で考えたことを、最大級の規模で取り組むことができるチャンスと捉え、ありがたいお話としてお受けしました。
松島会長との代表二名体制で視野を広げ、取り組みの解像度も高める
鳥居 社長就任後、現在は松島陽介会長との代表二名体制となりました。この体制は「変更」ではなく「強化」であると折に触れてアナウンスされています。その真意をお聞かせください。
野口 事業領域が拡大する中で、データの量や種類が増えて、取引先やサービスの提供先も広がっています。松島だけでなくヘルスケア領域で実務経験がある私も一緒に見ていくことで、一つ一つの取り組みの解像度を上げてしっかりと進められることが「強化」の真意です。
現実には切り分けられず一緒に進める部分も大きいですが、大きな構想、ビジョンを描くところは、引き続き松島が担当し、足元の事業を推進していく部分が私の役割となっています。
鳥居 若くして社長に就任され、今後も長期的に経営に携わっていくことが予想されますが、長期的に取り組みたい課題はどんなことですか。
野口 我々の掲げているミッション自体が超長期目線の取り組みであると考えています。取り扱い可能なヘルスケアデータの種類は増えてきましたが、まだまだ分断されていることが大きな課題となっています。これらをつなげてデータが持つ価値を最大限に引き出すことによって、日本のヘルスケアに大きなインパクトを与えることができると考えています。すでに健保や医療機関からデータを集積していますが、さらにPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)へとつなげてデータの価値を上げていくこと、データの持つ価値をデータホルダーや社会に還元していくことをしっかりと進めていきます。
長期的取り組みとはいえ、ヘルスケアの質と効率の改善は喫緊の課題です。全てを一気に解決することは難しいかもしれませんが、スピード感を持ってできるところから課題解決に取り組んでいきます。
鳥居 足元から中期の目線では、オムロンとの戦略的パートナーシップの強化がポイントになると思われます。オムロンの連結子会社になることで、変わること、変わらないことは何ですか。
野口 オムロンが持っているデータアセットにアクセスしやすくなるのは大きなメリットであり、例えばバイタルデータ※の活用なども検討しています。
変わらないことは、我々の自主性、独立性、そして成長のスピードです。オムロンとは非常に良好な関係を構築できており、連結子会社化によってJMDCの新規事業への投資がやりづらくなったり、機動的なアクションが取りづらくなって成長が停滞するようなことは一切ありません。
- 脈拍や血圧、体温等、人間が生きていることを示す「バイタルサイン」をデータ化したもの。
時間軸と成長可能性の観点から事業ポートフォリオを構築
鳥居 スピード感をもってデータを量・質の両面で拡充したり、提供サービスを増やすために買収や新規事業立ち上げをされたりと事業の拡大をされていますが、やる・やらないの事業判断、撤退を含めた取捨選択はどのように考えているのですか。
野口 難しい判断です。芽が出るまでに相当時間がかかる事業もあれば、一見良さそうだけれど、なかなか飛躍的な成長を遂げるところまでいかない事業もあります。ただ当社にはデータビジネスのノウハウが蓄積されてきておりますので、成長の芽を育てていくことは得意だと思っています。
ですから、事業ポートフォリオを考える上では足元の収益性や事業規模だけでなく、中長期で成長し花開くものなど時間軸の分散も意識しています。
キャリア構築においての「主体性」
鳥居 冒頭にもお伺いしましたが、野口社長は非常にユニークなキャリアを構築されてきた印象があります。自身のバックグラウンドを活かしたキャリアの構築にあたり重要な点は何でしょう。
野口 実は明確にキャリアのビジョンを持ったことはなく、ヘルスケアの領域で世の中に貢献したいという思いだけでここまで来ました。社会的ニーズ、課題の解決に取り組む中で、会社や事業に対して自分は価値を出せるのかという視点で、その都度キャリアを選択してきたに過ぎないと思います。
鳥居 新しい会社、社員の平均年齢が若い会社の従業員は柔軟にキャリアチェンジしやすい一方、まだまだ伝統的な大企業では相対的に難しい印象があります。こうした働き盛り世代に対して、最後にアドバイスをいただけますか。
野口 私自身は伝統的な大企業で働いたことがないので、正直なところは分かりません。ただ、キャリアを積み上げていく上では主体性が大事だと思います。
大きな会社にいたとしても、自分でキャリアをデザインする人はいると思います。色々なプロジェクトに手を挙げたり、制度がなければ作ったり、場合によっては社外に飛び出すことも含めて、能動的に動くことが肝心です。そうすれば仕事も楽しくなります。
当社もベンチャーから始まり、今ではそれなりの規模に成長しましたが、創業の思いを忘れずに、主体性を大事にして、どんどんチャレンジしようと社内では訴えています。
鳥居 数々の局面で、主体的かつ柔軟にキャリア選択をされてこられた野口社長ならではのメッセージですね。日本のヘルスケア産業を良くしたいという強い想いを感じました。今回は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
上記の内容は投資勧誘を目的としたものではなく、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。
上記の内容は「次世代の日本を担う若いと考えられる経営者」のご紹介であり、採り上げた企業を当ファンドが保有しているとは限りません。
(掲載日:2024年3月8日)