次世代経営者インタビュー
#2 「最適解」を見極め、強みを発揮し続けることが大きな成長のエンジンとなる
株式会社MCJ
代表取締役 社長 兼 COO
安井 元康氏
Keyword
- MCJ
- アジャイル
- キャリア
- データ活用
- 付加価値
「新しい風で日本の未来を切り開く。」
本インタビューでは、次世代の日本を担う若き経営者をシリーズで紹介します。
第2回は、受注生産(BTO)のPCメーカー、マウスコンピューターをはじめ、PC関連事業を幅広く展開するMCJの安井元康(やすい・もとやす)社長にお話を伺います。同社の急成長を支える意思決定と事業戦略、多様化するユーザーのニーズを拾い上げるための仕組み、アジャイル(俊敏)な製品開発を可能にする企業カルチャーなどについて語っていただきました。
常に自分の付加価値が出せる領域を探してキャリアを選択
馮 最初に、安井社長が就職先としてMCJを選んだ理由について教えてください。
安井 私が大学を卒業したのが2001年、いわゆる就職氷河期であり、学歴的にもトップレベルでなかったことから、就職活動ではとにかく人と違うことをやって、ユニークさで勝負しようと考えていました。
20代は、一番チャレンジングなところに身を置いて、自分をどれだけ成長させられるかということが大きなテーマとしてあったので、大企業ではなく、ITバブル崩壊後のベンチャーを選びました。最初の会社には約1年いましたが、さらなる成長機会を求めて、MCJ(当時、マウスコンピュータージャパン)に転職しました。
当時もそうでしたが、私はいつも「クイックヒットが狙える隙間」、すなわち短期間のうちに自分の付加価値が出せるような領域がないかを探しています。当時のMCJは営業部門が強いけれど、管理部門、特に財務の数字を見る人材が不足していました。
将来は企業経営者を目指して、経営の基本知識の1つである財務・会計の資格も持っていたので、それらのスキルを活かすことができると考えたこともMCJを選んだ理由の1つです。
馮 入社後、会社の売上は大きく成長し、ご自身もCFOに就任しました。まさにクイックヒットを放つことができたのはなぜですか。
安井 一番の要因は、IPO(新規株式公開)プロジェクトを立ち上げて、それが成功したことではないかと思います。社内にはもちろん経験者もいませんでしたし、ノウハウもない中で、実務担当者として試行錯誤しながらプロジェクトを推進し、やり遂げることができたことは大きな財産になりました。
馮 役員まで務めたMCJを辞めて留学し、約10年間、コンサルティング業界に身を置かれました。そして再び、MCJに戻られたわけですが、どのような経緯があったのでしょうか。
安井 もともと、20代のうちに留学し、MBAを取得したいと考えていました。また、ベンチャーしか経験がなかったので、それ以外を知るために経営コンサルの道を選びました。約10年が経ち、一区切りと考えたところで、夢だった企業経営者を強く意識したことが、MCJに戻った大きな理由です。
企業経営者を目指すにあたって、2つのことを考えました。1つは、自分が愛着のある会社の企業経営者になること。そしてもう1つが、自分にとって一番チャレンジングな場所に身を置くことです。MCJは上場に携わりましたから、非常に愛着があります。一方、大きなポテンシャルがあるけれども、それを活かしきれていないという課題も外から見えていました。自分自身が持ち込める付加価値が大きいと思ったことからもMCJへの復帰を選びました。
マーケティングと技術の2つのデータを組み合わせ、最適解を導き出す
馮 2017年4月にMCJの社長に就任し、5年間で売上は2倍弱までに成長しましたが、それを可能にしたのは何だったのでしょうか。プロダクト戦略なのか、あるいはマーケティング戦略なのか、どのように考えていらっしゃいますか。
安井 グループ傘下には様々な会社がありますが、それぞれやっていることが違います。「この会社は何をすることが一番成長につながるのか」を見極めて、そこにリソースを集中していったことが大きいと思います。
例えば、マウスコンピューターは、それまでやっていなかった広告宣伝を大々的に展開しました。耳に残るリズムの「マウス」のCMをご存知の方も多いのではないでしょうか。もともとはニッチ向けのPCメーカーで、当時の主力はデスクトップPCでしたが、広告宣伝に合わせて、プロダクト戦略も変更しノートPCのラインナップを強化していきました。
先ほどもクイックヒットと言いましたが、短期で成果を出すには、どこを変えれば一番効果的なのか、そのポイントを見極めることが非常に重要だと思います。
馮 「見極める」という意味では、ニーズのあるプロダクトであったり、注力すべきチャネルを選択したりする際には、どうやって決めているのですか。
安井 基本的に2つの視点があり、1つはマクロの視点、世の中が今後どうなっていくのかという大きな流れです。もう1つはミクロの視点で、自分たちの強みがその場所で活かせるかという見極めが重要です。
例えば、「MCJはスマートフォンをやらないのですか?」とよく聞かれたのですが、そこは一貫して、当社の出るべき市場ではないと考えています。スマホの市場ではグローバル企業がブランド力を持って、最初から日本国内でも大きなシェアを占めていますし、その構造上ハードウェアのカスタマイズはほぼ出来ません。一方、PCは日本のメーカーがある程度シェアを持っていたところに、グローバル企業が参入してきたので、日本企業が日本にいることの強みを活かすことができます。日本にいるからこそ、ニーズに応じたカスタマイズも丁寧なアフターサポートも可能です。こうした大局観と、自分たちの強みが活かせるのかという視点を持っているからこそ、我々はPC関連ビジネスに注力しているわけです。
馮 多様化するユーザーのニーズを拾い上げるための仕組みについて教えてください。
安井 もちろん、どのようなニーズがあるか常に調査しています。我々はPCの開発・製造から、販売、アフターサービスまでのバリューチェーンを自社グループ内に持っています。営業部門やアフターサービス部門では、エンドユーザーの声を直接聞くことが可能です。こうしたマーケティングデータと、研究開発、製造などの技術データの2つをうまくミックスさせることによって、最適な解に結びつけるようにしています。
かつての日本企業は、技術革新が先行していましたが、最近のIT企業はマーケティングが優先されている印象です。我々は、技術とニーズの両方を結びつけることを強みにしていると思います。
馮 技術とマーケティングの2つのデータを結びつけるとのことですが、部署が違えば簡単ではなさそうです。
安井 ユーザーの声を拾って、製品開発に活かすBTO(受注生産)のビジネスモデルは、そもそも2つのデータを結びつけることなのです。マス層ではなく、ニッチ向けのプロダクトを製造し、販売することを強みとしてきたので、ユーザーニーズを拾い上げることは、企業カルチャーとして根づいていたと言えます。
「面白いから、やってみよう」がアジャイル(俊敏)な製品開発を可能に
馮 デジタルサイネージやタッチパネルへの対応もそうですし、BTO(受注生産)のPC、あるいはゲーミングPCについても、製品開発のスピードが非常に速いです。なぜ、MCJはアジャイルな製品開発が可能なのですか。
安井 新しいニーズ、他社がやらないようなニーズはどこにあるのかを見極めた上で、製品開発するスタイルが、もともとの企業カルチャーとしてあったからですね。現場から、何度も承認を得てやっと経営層にプレゼン資料が上がってくるのではなく、「面白いから、それやってみようよ」ということが社内の至るところで起きています。
例えば、数年前にグループ会社のユニットコムがディープラーニング対応PCを出したのですが、当時はまだ市場として存在していませんでした。しかし、営業担当者が大学の研究施設に行くたびに、「AIだ、ディープラーニングだと言っている割に、対応しているPCがない」という不満の声を聞いて、じゃあ、やってみようかという形でつくったら、意外と当たったということがありました。もちろん失敗もありますが、とりあえずやってみる。だから、スピードが速いのかもしれません。
馮 大きく成長しながら、いまなおベンチャー企業の精神を維持している、そんな印象を持ちました。最後に、日本の働き盛り世代へメッセージをお願いします。
安井 30~40代の働き盛りのビジネスパーソンの中には中間管理職に就いている方も多いと思います。上司と部下の板挟みにあって、気苦労もあるかと思いますが、見方を変えれば、結果が出しやすいポジションにいるとも言えます。20代よりも経験と知見があり、上の世代よりも体力、気力があるのもアドバンテージです。
ご自身のポジションなども意識しながら、どこで価値を出せるか、どこで戦うべきなのかを見極めた上で、職業人として、歴史に残るような大きな仕事にチャレンジしてほしい。ぜひ、クイックヒットを狙うなどし、自分自身でポジションと名刺を築いていってください。
馮 最適解を常に見極めてこられた安井社長ならではのメッセージですね。今回は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
上記の内容は投資勧誘を目的としたものではなく、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。
上記の内容は「次世代の日本を担う若いと考えられる経営者」のご紹介であり、採り上げた企業を当ファンドが保有しているとは限りません。
(掲載日:2022年10月27日)