野村アセットマネジメント

対談【KOA】長野県の“伊那谷”にある世界的部品メーカー

中央:KOA株式会社 取締役会長 向山 孝一 氏 右:KOA株式会社 代表取締役社長 花形 忠男 氏 左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖
中央:KOA株式会社 取締役会長 向山 孝一 氏
右:KOA株式会社 代表取締役社長 花形 忠男 氏
左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

中央アルプスと南アルプスに囲まれた長野県南部の上伊那郡箕輪町に本社を構えるKOAは、電気・電子回路に欠かせない抵抗器の生産で世界有数のシェアを誇る。特に厳しい品質が問われる自動車向けの抵抗器に強く、EV(Electric Vehicle)化を背景にさらなる成長が期待されている。前日の大雪のため一面雪景色となった伊那谷において1940年に創立した同社が大切にしてきた社会的な価値について、KOAの向山孝一氏と花形忠男氏が野村アセットマネジメントの小池広靖と語り合いました。

ふるさとに何とか新しい産業を興したい

小池 今日の午前中、工場見学をさせてもらいましたが、とても清潔感のある工場、社内ですね。社員の方も明るく、皆さん気持ちの良いご挨拶でお迎え頂き、本当に素晴らしいですね。また、こんな素晴らしい雄大な自然の中で世界最先端の部品が作られているというギャップにも感動しました。
KOAは世界的な抵抗器メーカーとして有名ですが、その創業のビジョンにおいて「農工一体」「伊那谷に太陽を」を掲げ、5つの主体(株主様、お客様・お取引先様、社員・家族、地域社会、地球)を大切にされています。ステークホルダーという言葉すらない時代から脈々と受け継がれ、現在でも実践されています。創業に至る背景、そして創業ビジョンについて聞かせてもらえますか。

KOA株式会社 取締役会長 向山 孝一 氏

向山 大きく2つの要素があると思っています。一つは、時代背景です。創業者の向山一人が生まれたのは大正3年(1914年)。長野では岡谷を中心に製糸産業が盛んで、本人も養蚕農家の8人兄弟の次男坊でした。明治維新以来の近代化を支えた製糸産業が1929年の世界恐慌(日本の昭和恐慌)で大きな打撃を受け、繭の値段は暴落し、養蚕中心の伊那谷の経済は壊滅していきます。農村地帯は疲弊し、家族を養っていくことが難しくなっていたのです。
もう一つは、創業者の人生観です。ふるさとに何とか新しい産業を興さないといけないと10代後半の向山一人は思ったそうです。東京に出て炭屋などで働きながら夜学に通い、早稲田の高等工学校に入ったときに、ブラウン管の研究をする先生との出会いがありました。のちに「あれは天命だった」と創業者は語りますが、これからは電気の時代であり、電子回路に必要不可欠な電子部品であれば、山紫水明な土地で手先が器用な伊那谷の人たちに最適で、この地に根付く産業になるに違いないと確信したそうです。
KOAには創業のビジョンとして、「農工一体」と「伊那谷に太陽を」があります。
農業が一番大事だが、それだけでは生計が成り立たない現実があり、電子部品の産業を興すことで、雇用を生み、田畑や森林、文化や暮らしを守り地域社会に活力を取り戻すことが「農工一体」というビジョンです。「伊那谷に太陽を」というビジョンも、かつての製糸産業に代わって電子部品工業をこの地に根付かせ、新しい社会基盤を作ることが創業者の夢であったと伝えています。世代が代わっても、“ふるさとをいつも中心においていこう”、これらがKOAの原点であり、創業の精神です。

小池 事業アイデアやマネジメントよりも先に、地域を育み、貢献していくために事業を展開していくということですね。ESGのS(社会)に強い信念のようなものを感じます。
私も多くの経営者の方にお会いする機会がありますが、御社が地域貢献に対してここまで強い意識を持たれていることに感銘を受けます。

部品に徹することでセットメーカーとの信頼築く

小池 過去10年間において、御社の事業規模は約2倍に拡大しました。特に直近2~3年において営業利益は4倍以上に成長しました。
受動部品全般が好調だったとの市場要因もあると思いますが、改めて御社のビジネスの強みはどこにあるのかお伺いできますでしょうか?

業績推移
※2022年度はKOA株式会社の計画の数字
(出所)KOA株式会社・会社資料より野村アセットマネジメント作成

向山 完成品ではなく、電子部品、抵抗器に80年間も注力し掘り下げてきた点が大きいと思います。確かに完成品は売上も大きく、直接消費者に商品を届けられるのは魅力です。それでも部品専業メーカーとしての方向性を堅持したことで、顧客であるセットメーカーとのつながりや信頼関係が強化され、その純粋性が奏功し、先んじた提案ができました。
海外ビジネスでも転機がありました。初めに米国に進出しますが、結局1年ほどで撤退することになります。その後、米国ライバル企業のトップからパートナーとしての打診を受けました。抵抗器は世界的に世代交代期を迎えており、品質や創業者理念などからKOAが選ばれたということです。それがいまの米国法人の原点です。
ドイツや台湾の現地法人もそうなのですが、地元の企業がKOAの創業の精神や、大事にしてきた信頼関係を評価してくれて、一緒になってやりましょうという共感をスタートに地域主体のマネジメントをしてきました。

KOA株式会社 代表取締役社長 花形 忠男 氏

花形 本業をぶれずにやっていこうという姿勢を継続してきたことも、大きな要因です。1985年のプラザ合意を受けて為替(米ドル)が一気に切り下がったことを契機に頂いた注文だけで利益を出せるよう、本業強化のための新しい経営システムづくりを始めました。現在ではKPS(KOA Profit System)と呼んでいるもので、経営の無駄を徹底的に排除するなど全員参加型の継続的な改善活動です。この活動は現在までずっと続いています。やり続けてくれた社員の真面目さはKOAが誇る企業文化になっています。
1990年の初め頃はアナログからデジタルに推移していた頃で、電気製品向けに抵抗器が売れていました。その頃に自動車メーカーのティア1との取引も始まりました。2000年頃からのKPSの第2ステージでは、お客様にご指名される会社を目指して品質の向上に取り組んできました。

EV化においては安全・安心という品質が強みに

小池 自動車向けの抵抗器では、高い技術力を背景にシェアが拡大していると思います。御社の売上高に占める自動車向けの構成比は40%を超え、今後の自動車の電子化の進展に伴い、さらなる成長が期待できる領域だと思います。こういった流れの中で、KOAのビジネスも大きな役割を担うことになると思いますが、このような動きをどのように捉えていますか。

自動車ビジネス・業績推移
(出所)KOA株式会社・会社資料より野村アセットマネジメント作成

向山 私たちから見ても、まるで景色は変わってきています。プレーヤーが大きく変わり、自動車は民生品のような趣きとなってきています。内燃機関でなければ誰でもできると軽く考えている新規参入企業もあるようですが、人命に直結する仕事をそんなに簡単に始めてもいいのかという思いはあります。
社会のインフラを支える産業機器も同様です。いずれも人命や社会システムに密接し、重要かつリスクのある領域だと思います。例えば、KOAの製品に何か不具合が生じた場合でも、データを含めて理論的に原因を確認し、その影響度を解明し、迅速に対策を講じることができます。品質よりもコストや利益を優先する一部の海外メーカーにそこまでのサービスをする能力はないでしょう。部品メーカーにも安全・安心に対する説明責任が問われる時代になると予想しています。
米国ではすでに、空飛ぶ車が市販されているように利便性を追求していくと民生品的な扱いになってくるのは仕方ありません。ただ、モビリティである以上、人命に直結する点は変わりません。そこを軽視するメーカーは、何か大きな事故を起こした際、手痛いしっぺ返しをくらうことは避けられないでしょう。
世界の長寿企業を見ると日本企業が群を抜いて多いことが際立ちます。例えば、200年以上続いている企業の6割以上が日本企業です。日本企業は文字通りサステナビリティを実践し、特徴のある産業を育ててきたのだと思います。サステナビリティにおいては我々を含め日本企業はトップランナーとの自負を持っても良いと思います。

野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

小池 今回の中期経営計画で、今後3年間で440億円の設備投資を計画されています。年間100億円以上の設備投資は創業以来で初めてと伺っています。自動車向け市場の拡大と供給先からの要請だと考えられますが、会社としては大きな決断だと思います。大規模投資に踏み切った背景など、お伺いできますか?

花形 大きな投資であることは確かですが、それだけニーズが明確化している証でもあります。顧客との直接対話の中では、5~10年先のニーズが明確になっているので、ギャンブル的な投資ではないと思います。
また、抵抗器メーカーとして顧客の要望に的確に応えることのできる競合メーカーが少なくなってきていることも背景にあり、研究開発費については10年ほど前から売上高に対する比率を3%から4%へ高めてきました。ウクライナ情勢などを含めリスクがないわけではありませんが、顧客のための供給責任、開発責任を果たすためにも必要な投資と考えています。

小池 実際に工場を拝見させていただくと依然として供給は不足しており、必要な投資との印象を持ちます。また、EVの将来性についてお話を聞くと本当に魅力ある事業だと感じます。株式市場でも株価がもっと評価されてもよいのではと思うのですが、いかがお感じになりますか。

向山 投資家が株価の判断基準にするのは収益性や将来性であり、いずれも数値で表されるものです。ただ、KOAの価値は、家庭や企業、寺社・仏閣、病院など地域社会の基盤があって、そして5つの主体との信頼を構築している中から生まれる“ふるさとの幸せ”といった数値で表せないものもあります。上場企業として収益を上げることは当然ですが、そういった価値が株式市場で評価される時代が将来やってくるはずだと希望を持っています。

小池 改めて御社のような事業の成長性だけでなく地域貢献という柱があって、そういった創業理念が脈々と引き継がれている素晴らしい会社があることを発見できました。さらに情報開示のレベルや頻度、投資家対応などを充実させることで、あるべき企業価値の評価に結びつけることができると感じます。
地域社会に根差して独自の強みを持った日本企業はまだまだあると思いますが、KOAがそうした企業群のベンチマークというかお手本になっていただければ、日本の地域社会や経済は活性化していくと思っています。
私たちも、そういった動きを後押しすべきだと考えて、世に広めていくお手伝いをしたいと考えています。

花形 これまでは地方の企業でPRには積極的ではなかったのですが、2023年は統合報告書を発行する予定ですので、楽しみにしていただければと思います。

向山 日本には企業の大きさを問わず、尊敬する経営者の方々が数多くいらっしゃいます。世界標準を超える日本的経営のよさを積極的に打ち出すタイミングに来ていると思いますので、ぜひ小池さんにも協力していただければと思っています。

小池 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

この記事は、投資勧誘を目的としたものではなく、特定の銘柄の売買などの推奨や価格などの上昇または下落を示唆するものではありません。
(掲載日:2023年2月24日)