野村アセットマネジメント

対談【三井住友トラスト・ホールディングス】新たな市場を生み出しながら、成長を続ける信託関連ビジネス

右:三井住友トラスト・ホールディングス株式会社 取締役執行役社長 高倉 透 氏 左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖
右:三井住友トラスト・ホールディングス株式会社 取締役執行役社長 高倉 透 氏
左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

三井住友信託銀行を傘下の中核としながら、複数の資産運用会社を有し機関投資家としての顔も持つ三井住友トラスト・ホールディングス。これからの株式市場を健全に発展させていくため、どのようなエンゲージメントが望まれるのか。気候変動からスチュワードシップや上場会社におけるコーポレートガバナンスの両立まで、三井住友トラスト・ホールディングスの高倉透氏と野村アセットマネジメントの小池広靖が語り合いました。

信託関連ビジネスにおける資産運用残高と資産管理残高は10年前の2倍に

小池 我々、野村アセットマネジメントと三井住友トラスト・ホールディングスには、機関投資家という共通項があります。資本市場に深く関与する立場として、日本株への投資機運を高めていくエンゲージメントの在り方には大きな関心を抱いています。本日は、同じ土俵に立つ同志としてご意見を伺いたいと思っています。よろしくお願いします。

三井住友トラスト・ホールディングス株式会社 取締役執行役社長 高倉 透 氏

高倉 ありがとうございます。最初に、三井住友トラスト・ホールディングスの立ち位置について理解していただければと思います。ざっくり言いますと、信託関連ビジネスの資産運用残高は127兆円で資産管理残高は248兆円、それに対して銀行ビジネスでの総貸出残高は30兆円程度です(いずれも2022年3月末)。また、不動産や証券代行などの業務も展開していますので、広義の資本市場を主たるビジネス領域とする金融グループであることがお分かりいただけるのではないかと思います。
10年前との比較でみると、貸出を中心とする与信分野の残高は微増にとどまる一方、資産運用と資産管理の残高は2倍に増加しています。そして今後もカーボンニュートラルに向けた投資が進むことから、資本市場はさらに拡大し、ビジネスチャンスも増加すると見込んでいます。

小池 信託関連ビジネスの領域を拡大されてきたということですね。当然ながら銀行としての機能もお持ちですが、いわゆる商業銀行グループとの違いや特徴などはどういったところにあるのでしょうか。

高倉 まず、銀行貸出のポートフォリオ構成が徐々に変化しています。法人向けの貸出について言えば、従来の国内企業向け貸出、いわゆる国内コーポレート貸出から、国内企業の海外現地法人向け貸出や国内外のアセットファイナンスなどプロダクト貸出へのシフトを進めています。プロダクト貸出は我々の銀行勘定だけで取り組むのではなく、できるだけ投資家の皆さまにもご参加いただけるような形でアレンジしています。我々の資金だけでは対応できない金額のファイナンスを、投資家資金と合わせることで実現できた事例も出てきています。
こうしたファイナンス案件をきっかけに、地域金融機関やアジア各国の銀行など投資家のお客さまとの取引を開始しています。銀行ビジネスを通じて、運用商品のご紹介や資産管理などの信託関連ビジネスへ展開していく流れは、当グループの特長です。

それぞれの独自性は尊重しつつ、事務効率化や協働エンゲージメントの領域で協力を

小池 三井住友トラスト・グループには、三井住友トラスト・アセットマネジメント(SuMiTAM)と日興アセットマネジメント(日興アセット)という2社の運用会社があります。

高倉 グループとして日本やアジアではトップ、世界でも30位以内に入る資産規模になっています。運用の内訳は、株式と債券がそれぞれ半分ずつといった感じです。株式運用については、資産規模が大きいSuMiTAMでは、国内と海外が半分程度のボリュームです。

小池 エンゲージメントにおいて共通する部分は多いのでしょうか。

高倉 気候変動に関してしっかりと取り組んでいこうという姿勢は共通です。気候変動というテーマそのものは、1972年には国際的シンクタンクのローマクラブが「成長の限界」という論文で指摘しているように以前からありますが、世界的な異常気象が続き、人々の地球環境への危惧が広がったことで、ようやくカーボンニュートラルへのコンセンサスができあがってきました。昔と比べれば平和で豊かな暮らしを享受している人は増えていますが、ウェルビーイングな状態を保てなくなるリスク要因として、気候変動は非常に重要な課題です。

小池 エンゲージメントのアプローチで2社の違いはありますか。

高倉 たとえば、SuMiTAMでは、積極的に金融イニシアティブに参加し、そこでの議論を踏まえ、リーダーシップを取りながら課題を前に進めるエンゲージメントを心掛けています。国内外ともに企業には積極的なエンゲージメント活動を行っていますが、日本企業に対しては地域の特性を踏まえたエンゲージメントを意識的に行っています。ダイベストメント(投資資金の引き揚げ)は考えず、建設的な議論を中心としたスタイルが特長です。これは、SuMiTAMが年金などの投資家から中長期の資金を多くお預かりする立場にあり、パッシブ投資の割合も高いという特徴と深く関係があります。継続保有を前提にしつつ、どのように「責任ある投資家」として投資先企業や市場全体にポジティブなインパクトを与えていくかということを考えますと、SuMiTAMにとってエンゲージメントがいかに重要なものかということが分かっていただけると思います。
日興アセットも取組みや考え方は似ていますが、組織の成り立ちに違いがあります。自分たちが得意なところを活かしながら、グローバルに運用やディストリビューションの拠点およびネットワークを拡充しています。人材も東京本部の主導だけではなく、ロンドンやシンガポールといった海外拠点を含め、適材適所に登用・配置していくスタイルです。ESG領域では、リーダーシップを発揮できる人材がいるシンガポールに、会社全体のESGヘッドを設置しました。

小池 シナジー効果やスケールメリットから2社が一緒になっても良いのではといった考え方もあるとは思いますが、高倉さんとしてはどのようにお感じですか。

高倉 そういった考え方があることは理解しています。運用プロダクトに関して、インデックスプレーヤーは、ある程度共通化していくことに合理性があると思いますが、アクティブプレーヤーはいろいろなストラテジーからそれぞれ独自の判断で取り組んでいますので、一緒になる意義は必ずしも大きくありません。独自性を尊重しつつ、効率化を目指すのであれば、まずは本部系の管理業務や事務に目を向けることになります。両社間では既にこのような領域で共通化の取組みを進めています。エンゲージメントの分野においては各社単独の活動だけでなく、既に、イニシアティブを通じた他の資産運用会社との協働にも、積極的に取り組んでいます。

2つの運用子会社の概要
(出所)三井住友トラスト・ホールディングス株式会社・会社資料より野村アセットマネジメント作成
マテリアリティを意識した人材戦略
野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

小池 海外企業のエンゲージメントに関しては、当社でもロンドンを拠点に積極的に行うようにしていますが、なかなか自社だけでは足りず、パートナーを探しながら展開しています。そういった悩みは三井住友トラスト・グループにもありますか。

高倉 日本国内のことは私たちも肌身で感じてよく分かる面が多いですが、グローバルとなるとエリアによって事情や背景も異なり、それぞれの企業が置かれている状況を感覚的に理解することは簡単ではありません。ただ、グローバルで共通の課題や尺度は、様々なイニシアティブへの参加を通じて実感することができ、エンゲージメントに活かしている面はあります。また、SuMiTAMはそれなりの投資ボリュームになってきています。海外企業の株主名簿でも上位に顔を出すケースも増えており、発行体の側からも一定の規模の株主に対する姿勢でエンゲージメントに応じていただけています。

小池 気候変動やカーボンニュートラルへの金融機関としての対処において、イニシアティブに参加される意義は理解できるのですが、結局のところ、エンゲージメントを推し進めるためには、人材の育成や確保が大事なキーになるのではと考えています。人材に対する方針や展望を聞かせていただけますか。

高倉 三井住友トラスト・ホールディングスの取締役会での議論で定められたマテリアリティ(資本循環の促進・阻害要因)では、財務やガバナンス以外に、社会や経済に重大なインパクトを与えうるインパクトマテリアリティとして主に4つを挙げています。1つ目は「気候変動」、2つ目が「超高齢社会」、3つ目が「技術革新」、4つ目が「金融包摂」です。グループ各社で自分たちのビジネスでマテリアリティを念頭に戦略を立てて取り組んでいます。
人材育成もその中での大きなテーマであり、気候変動に対してどういった人材を確保するか各社各様に考えています。たとえば、三井住友信託銀行では気候変動対策への技術分野を理解し、企業をサポートするために、テクノロジー・ベースド・ファイナンスチームを作りました。メーカーの研究室などで勤務していた経験豊富な博士や修士の方々を採用しています。お取引先への提案の質を高めるだけではなく、その知見は社会的インパクトの評価や運用会社ソリューションにもつながるものと考えています。

小池 ここ数年のESGの潮流から、ここまで迅速に社内でチームを立ち上げたのは、なかなかのスピード感ですね。

高倉 スピード感があるのは、ずいぶん前からの取組みがあってのことです。2000年頃は企業年金の運用ではSRI(社会的責任投資)が勃興してきた時期でしたが、私たちは当時から次の本流は何かとにらみながら運用ビジネスを展開してきました。いよいよカーボンニュートラルへのコンセンサスが確立し、事業会社の投資もアセットオーナーの関心もそちらに向かってきました。見せかけの環境対策であるグリーンウォッシュではなく、本物の社会実装が求められる流れとなってきましたが、既に当グループでは必要な人材を必要な分野のプロフェッショナルとして採用・登用する動きが確立しています。専門人材が専門人材を呼び込む形で、ESGなどの戦略領域の担い手が自発的に集まってくるといった好循環も生まれています。

政策保有株式の削減と今後のエンゲージメントの在り方

小池 三井住友信託銀行では、ポジティブ・インパクト・ファイナンスへの取組みにかなり積極的な印象を受けます。

高倉 わたくしが社長に就任した直後の昨年5月に、従来型の政策保有株式をゼロにしていく方針を打ち出しました。政策保有株式はお取引先との絆にはなっていますが、資本市場全体で見れば循環を停滞させているひとつの要因にもなっています。コーポレートガバナンスを健全に機能させる観点でも重要な論点ですし、リターンが向上していく日本経済を築いていくためにも、できるだけ早く取り除いておきたいと考えました。
お取引先のコーポレートガバナンスの方針も千差万別で、その進捗は比較的ゆっくりとしたものですが、政策保有株式の削減により生み出された投資余力を用いて、気候変動の社会課題解決に資するインパクトのある領域への投資も可能になります。脱炭素化などを実現するには新たな技術やビジネスの創出が必要であり、我々がまずリスク・リターンを見極めて投資を行い、それに共感いただける投資家の資金を呼び込むような好循環を生み出したいと考えています。

政策保有株式の削減状況
(出所)三井住友トラスト・ホールディングス株式会社・会社資料より

小池 政策保有株式が資本効率を含めて利益成長の阻害要因になっており、売却して他の投資に回すことで、企業としての資本効率を高めることに異論はなく、私たちも同様のことを言っています。ただ、逆の考えとして、それだけのエンゲージメントスキルがあるのであれば、2022年3月末に簿価で5,000億円ほどある保有株に対して、企業価値を高めて日本の資本市場の発展に貢献することもまた可能なのではと思います。企業としてのコーポレートガバナンスの追求と機関投資家としてのスチュワードシップ活動の両方を背負う特殊なポジショニングが前提にあるのは承知のうえですが、どのように思われますか。

高倉 小池社長のおっしゃる考え方はあると思います。
従来型の政策保有株式を削減する取組みは、当社の資本効率を高めるだけではなく、資本市場の好循環を促します。
非上場企業に対しては、株主として、また取引金融機関として、社会的価値創出と経済的価値創出の両方を追求するエンゲージメントを行っています。
保有を前提に考えますと、上場株式に関しては、他の株主からも理解・賛同してもらえるようなエンゲージメント活動が必要になります。このために、信託銀行およびアセットマネジメント会社では、個々に政策保有株式に関する議決権行使ガイドラインを定めて行使しています。株主共通の利益を意識したエンゲージメント活動が求められますが、どのように進化させていくのか、まだまだスタディが必要だと感じています。

インパクト・エクイティ投資
(出所)三井住友トラスト・ホールディングス株式会社・会社資料より野村アセットマネジメント作成
プライベートアセット市場の創出を通じた、国内の資金・資産・資本の循環拡大

小池 2022年7月に、米国の大手投資ファンドであるアポロ・グローバル・マネジメントと資産運用などの業務で提携するという発表がありましたね。

高倉 同社との業務提携を結ぶとともに、傘下の三井住友信託銀行が、プライベートアセットポートフォリオに対して15億ドルの出資を行うことを決めました。この取組みも単なる投資を目的としたものではなく、国内でプライベートアセット市場を創出することが狙いです。脱炭素社会の実現に向けて、国内の企業では今後巨額の資金需要が見込まれます。一方で、長期の運用ニーズを抱える生保のような機関投資家や個人投資家の運用ニーズもあります。信託銀行グループとしての特長を活かして結びつけることで、新たな資金循環を生み出したいと思っています。
そうしたときに、私たち自らが銀行勘定で投資することで知見・経験を高めることは、投資家が投資しやすい運用商品の開発やサービス提供にもつながります。また、アポロのように海外で実績のあるプレイヤーと組むことで学ぶことも多く、市場創出に向けた取組みを加速できる絶好の機会だと考えています。

Apollo等との業務提携およびオルタナティブ アセットポートフォリオに対する投資
(出所)三井住友トラスト・ホールディングス株式会社・会社資料より
信託関連ビジネス領域の拡大でグロースの要素が濃くなる

小池 信託銀行グループのビジネスでは、不動産も柱の1つです。こうした領域でもESGという軸は重要視されているのでしょうか。

高倉 不動産も広義の投資であり、資産運用や資産管理の1分野として捉えています。不動産管理信託の受託残高は20兆円を超える規模になっています。気候変動の観点で言えば、物件のグリーン化は私たちの責務として進めていく必要があり、コンサルティングや環境認証の取得支援に力を注いでいます。公募や私募のREITではアセットオーナーの関心も高く、社会の期待に応える責任は大きいと考えています。

小池 信託銀行に対するイメージが大きく変わり、ユニークな金融機関として柔軟に変化し続けながら成長を遂げようとしている様子がよく分かりました。

高倉 2022年は、信託法および信託業法が制定されて100年目となります。当社の生い立ちも、およそ100年前を振り返れば、銀行ではなく信託会社からスタートしています。現在求められているグリーンな社会の形成に、信託の機能やサービスがお役に立てる領域は大きいのではないかと思うのです。例えば岡山県では、森林信託にも取り組んでいます。昭和の時代に貸付信託が中心だった信託銀行の姿からは大きく変わりましたが、社会課題に対して柔軟性の高い信託の力で解決策を見出すという意味では、原点に立ち返ったと言えるのかもしれません。

信託財産受託残高の推移
(出所)三井住友トラスト・ホールディングス株式会社・会社資料より野村アセットマネジメント作成

小池 それは興味深い話ですね。そうすると三井住友トラスト・ホールディングスの株価の捉え方も変わってくるのかもしれません。いわゆるグロースで投資をするべきなのか。それとも、バリューやイールドの視点で投資をするべきなのか。今の株価水準と今後の展望をにらんだ際、どのような評価ができますか。

高倉 株主に対するフィデューシャリーのもとに取締役会があって運営しているという点は、どこの企業にも共通する部分かと思います。当グループはそれ以前に、社会やお客さまのフィデューシャリーとしての取組みが求められます。資本の効率性に配意しながら、社会やお客さまなど幅広いステークホルダーの価値向上を実現することで利益が上がり、株主に対する責務も果たせる構図になっているわけです。従って、ステークホルダーの皆様のお役に立つ領域やボリュームが大きくなればグロースの要素が濃くなり、そうでなければ、バリューの色彩が強い構図になってくるということだと思います。
また、当グループの成長の可能性を客観的な数値でお話ししますと、日本の信託財産の受託残高はここ10年ほどで1,500兆円にまで倍増しています。私たちがいろいろな努力をし、カーボンニュートラルに向けて投資資金がしっかり回るようにできれば、次の10年で信託市場はさらに倍以上の規模に拡大すると見込んでいます。国内唯一の信託を中核とする金融グループとして、当グループは資本市場や信託市場とともに発展・成長していきますので、今後はよりグロースの要素を見ていただけるのではないかと思います。

さらに投資家の方々が気にされる資本の効率性についても、資本を大きく使う銀行勘定の与信は量を求めず、採算性の高い資産へ入れ替えることで収益性を向上させていく戦略です。インパクトエクイティやプライベートアセットといった銀行勘定による投資も、資本をあまり使わない資産運用や資産管理の拡大につながるよう取組みを進めていきます。全体として見ればROE(自己資本利益率)は上がる方向で、PBR(株価純資産倍率)も少し高めに見ていただける流れが出てくると思います。

小池 金融分野でグロースと言っていただけるのはうれしく感じますし、本当に期待したいところです。同じく機関投資家として日本の資本市場の発展に向けて協働活動などをご一緒できれば、とても心強く思います。

高倉 私たちが多様なステークホルダーの皆様に対するフィデューシャリーとしての役割をしっかり果たすことで、世界の資本市場やビジネスチャンスの拡大につながると思います。日本では資産形成層を含めた投資家の裾野拡大が進む中、一緒に取り組んでいけることも多々あると思います。ぜひ、よろしくお願いいたします。

小池 こちらこそ、貴重なお話をありがとうございました。

この記事は、投資勧誘を目的としたものではなく、特定の銘柄の売買などの推奨や価格などの上昇または下落を示唆するものではありません。
(掲載日:2022年12月16日)