野村アセットマネジメント

対談【MS&AD】海外を含めたグループ生損保のシナジーでレジリエントな社会形成に貢献したい

左:MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 取締役社長 グループCEO 原 典之 氏 右:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖
左:MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 取締役社長 グループCEO 原 典之 氏
右:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

三井住友海上グループ、あいおい損保、ニッセイ同和損保が経営統合して、2010年に誕生したMS&ADインシュアランス グループ。世界有数の保険・金融グループとして、個人から企業まで幅広い商品・サービスを提供している。災害の規模が大きくなりリスクが多様化する中、いかにして持続的な成長を図ろうとしているのか。今後の展望について、MS&ADホールディングスの原典之氏と野村アセットマネジメントの小池広靖の両代表が語り合いました。

火災保険の契約を徐々に新規へと入れ替える

小池 日本株にはまだまだポテンシャルがあると、私たち自身がよく理解しているところです。ただ、株式市場で訴求されていない情報はまだまだ多く、投資先企業とのエンゲージメント活動の大切さを改めて感じています。
本日は、MS&ADインシュアランス グループ(MS&ADグループ)が目指していることを投資家の視点でお聞きしたいと思っています。
まずは国内の火災保険事業についてです。もともと日本は地震も多く、加えて大型台風の到来など自然災害の激甚化が見過ごせない状況です。特に、海外の投資家から不安視されがちなこうした事業環境について、どのように捉えていますか。

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 取締役社長 グループCEO 原 典之 氏

 おっしゃる通り、過去10年ほど赤字が続く火災保険は大きな課題の1つです。その要因には自然災害の増加や大規模化がありますが、それ以外にも商品設計上の問題もあります。例えば、お支払いの対象。以前は多くはなかったオールリスクの商品が主流となっています。契約期間もかつては住宅ローンの契約に合わせて36年契約が最長でした。2015年以降10年、5年と最長契約期間を徐々に短縮し、新規契約については収支が合うようになってきましたが、それでも商品・保険料率の改定効果だけでは限界があります。
建物・設備の老朽化によって損害が発生する事案は増えており、築年数で保険料率は変えているものの保険金支払いの負担は大きいです。また、経年劣化と災害被害を混ぜこぜにして、保険金請求を代替する特定修理業者も社会問題化しています。

小池 収支改善への道筋は見えてきましたか。

 そうですね。保険の見直しに対する提案活動も奏功し、徐々にポートフォリオが入れ替わってきています。特定修理業者への対策として、約款を厳格化し損害発生時の復旧義務を設けました。水災リスクに対する保険料率の較差については金融庁の有識者会議で議論が続いていますが、較差が広がることで加入が困難になる方が生じるといった問題提起もあります。算出機構(損害保険料率算出機構)による料率検証の結果を踏まえ、次の料率改定では資本コストを踏まえた体系に変えていこうと今のところ考えています。
保険料の値上げをお願いする以上、当然、我々も経費の削減はしっかりやります。代理店手数料の見直しも行っています。

国内火災保険の引受利益(異常危険準備金反映前)の推移・会社見通し
国内火災保険の引受利益(異常危険準備金反映前)の推移・会社見通しグラフ
(注1)三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保の単体合算
(注2)国内火災のみ
(出所)MS&ADホールディングス インフォメーションミーティング資料より野村アセットマネジメント作成

小池 事業のリストラクチャリングを進めていただけるのはありがたく思っています。ただ、保険加入者として見ても、自然災害がこれだけ大きくなっており、再保険市場も飽和しつつある昨今、料率の改定と企業の自助努力だけではなかなかプロテクトできるものではなく、政府を巻き込んだ動きといったものが必要なのではと考えてしまいます。

 業界として個別のテーマでの議論は進めています。例えば、家屋の風災リスクでは瓦を屋根に繋ぎ止めていくよう建築基準法を見直してもらいました。それによってリスクを2、3割下げる効果があります。また、流域治水の問題は、自治体を交えた働きかけが大切です。例えば、熊本の球磨川流域の治水対策として、森林保全への取組みを一緒になって進めようとしています。

小池 ハザードマップ上、リスクが高い地域で自治体と一体となって災害を防ぐ活動で損害率を下げる効果につながりそうですね。日本は国土の7割が森林であり、地域貢献と事業の生産性改善の面でも技術導入できる余地が高いと言えそうです。私たちも森林運営に対してはオルタナティブ投資の対象としてのみならず、カーボンニュートラルのビジネスを展開する上で率先して取り組んでいます。

 森林に人の手が加わらないと荒廃が進み、米国のカリフォルニア州のように山火事のリスクが高まります。担い手や生産性での課題はありますが、一歩踏み込んだビジネス化は必要でしょう。例えば、森林保険について、これまでお支払いできなかった再造林費用まで補償する内容に変更しました。いろいろな事業者が努力することで見いだせる解決策があると思っています。

小池 ぜひ、注目したいと思います。

時代の変化で常に新たなリスクが登場する
野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

小池 自動車保険についてもお聞きします。自動車に装着したデバイスを通じて走行データをリアルタイムで把握するテレマティクス型の自動車保険は、傘下のあいおいニッセイ同和損保が積極的に取り組んでいる印象です。ただ、少し先を見据えると自動車保険市場が飽和状態を迎えた後が気になります。新たな事業の柱を含めて、どのような展望をお持ちですか。

 日本の車の保有台数は、ここ数年も若干増えています。しばらくは安定した保険料収入が見込めるとともに、お話にあったような差別化した保険内容で利益を高めたいと考えています。ただ、ご指摘のように長期で見れば、少子高齢化で免許を持つ人数が減少する状況は避けて通れません。新分野の賠償責任保険や労災の上乗せ的な保険といった企業向けの保険サービスは伸びてきており、今後、力を入れたいと思います。
リスクは技術の進化や時代の変化に伴って、常に新たなものが登場します。自動車がIoT化すればサイバーセキュリティへの備えが欠かせず、空飛ぶ車が登場したら保険の世界観はがらりと変わるでしょう。それは自動車といった移動手段に限りません。例えば、既に我々はiPS細胞の登場に伴い治験に対するリスクを商品化しています。こうした動きに付随して、例えば、サイバーセキュリティに関しては、ウイルスチェックのソフトを保険と一緒に販売する取組みも実は始めています。

元受正味保険料(含む収入積立保険料)の種目別構成比グラフ

小池 新たなリスクへの対応で事業機会は増えそうですね。まったく未知のリスクを取りに行く場合、保険のプライシングや引受けのキャパシティといった管理が大きなカギを握る気がします。

 新たなリスクに対する保険をつくるには、類似したリスクを見つけていくのが一般的なセオリーです。ただ、見えない部分もあるため、一定の安全係数を加味していきます。突き詰めれば、我々の保険ビジネスはデータが命です。データ力を高めるには自分たちが持ち合わせていなければ、他が持っているデータを活用する発想が大切です。
当社のサステナビリティコンテストで2018年に最優秀賞を取った北海道の牛の傷害保険は象徴例です。当初は不可能と商品部からコメントされていたものの、地元の農協や畜産業界から牛のケガに関するデータを集めてきたことで商品化にこぎつけました。

小池 MS&ADグループは、グローバルな保険のコングロマリットと比べ損害保険の比率が圧倒的です。生命保険の利益率は高まりつつあるようですが、今後も伸びる余地はありますか。

 傘下に三井住友海上あいおい生命(MSA生命)と三井住友海上プライマリー生命(MSP生命)の2社があります。MSA生命は損保代理店を通じて、損害保険のお客様への生命保険の重ね売りをターゲットとしています。現在、損害保険のお客様へ重ね売り出来ている比率は18%に過ぎず、これを今回の中期経営計画では25%まで高めたいと思います。また、損害保険では団体での契約が数万件ありますが、生命保険はまだまだ数千件に過ぎず、インターネットやイントラネットの整備で加入しやすい仕組みにして大型の団体契約の獲得を目指したいと思います。
生保2社のシナジーも高めたいと考えています。MSP生命は銀行窓販に強く、系列を超えてほぼすべての銀行さんとお付き合いがあり、窓販の売上で3年連続ナンバーワンの実績です。取扱商品をもう少し簡易なものにして、MSA生命の販売代理店で販売するといった活動を始め、これが伸びてきています。今後は販売代理店をさらに広げ、商品提案を通じて相続や生前贈与の需要を掘り起こしたいと思っています。

小池 生命保険会社同士のシナジーとは、私も思いつかない発想で今後が楽しみです。

海外事業はインオーガニックな視点を持ち続けたい

小池 投資家として動向が注目される海外事業について、お尋ねします。三井住友海上が2016年に買収した英国の保険会社、MSアムリンはビジネスが停滞していましたが、ようやく底を打って、ドライバーになりつつあると感じています。

 MSアムリンについては投資家の方々にご心配をおかけしました。不採算事業の再編で減損が生じましたが、地域持ち株会社を廃止し、三井住友海上の国際部門が現地法人を統括する体制に見直しました。MSアムリンには、ロイズ保険シンジケート、再保険、欧州の中堅中小企業向け保険元受けという3つの事業体があります。祖業であるロイズ保険シンジケートをベースに事業を組み立てる文化があり、補完として再保険会社を利用していたのです。これを改め、それぞれのビジネススタイルに合った事業モデルによって成長を目指す方針にしました。経営陣もすべて入れ替えました。

小池 事業のリストラクチャリングと経営陣の交代が奏功したと思われますが、本質的な課題はどのあたりにあったとお感じですか。

 いくつか複合的な背景があったと思います。MSアムリンの保険ビジネスはCAT(大規模な自然災害)が得意な分野でした。特に米国の中西部での引受が多く、かつてはロイズの他のシンジケートがうらやむほどでしたが、近年はハリケーンの経路が変わり、洪水が増えています。また、インフレが進み、保険金支払いのアタッチメント・ポイントも変わってきています。こういった変化にうまく対応できなかった点と、CATビジネスにおけるトップライン志向が強く、保険引受の可否について経営陣の判断が甘くなったという2つの点が挙げられます。重要なお客様には自然災害リスク対応のカバーを提供していきますが、まずはポートフォリオのあり方を検討しながら基盤を固め、中期経営計画の2025年度最終年度で300億円くらいの純利益を上げたいと思います。

海外事業の純利益の推移・会社見通し
(出所)MS&AD統合レポート2022より野村アセットマネジメント作成

小池 なるほど、よくわかりました。米国では自然災害以外のビジネスとして、トランスバース社を買収しました。どういった期待を持っていますか。

 米国は保険料で90兆円ほどの市場規模がありますが、その1割がMGA(Managing General Agent)と呼ばれる保険の設計や引受管理、募集を手掛ける総代理店によるものです。トランスバース社はMGAの引受契約を再保険会社に仲介するフロンティング会社です。MGAはニッチやスペシャルティと呼ばれる成長分野に長けている会社が多く存在します。実際、MGAマーケットは5年で30%程度伸びており、再保険市場へのフロンティングのビジネスも10%ほど伸びています。トランスバース社は若い会社ですが、事業計画を精査し保守的な見立てで買収を進めました。彼らにとっても我々の信用格付けを得ることで、ビジネス機会が広がると期待しています。

小池 こうした海外事業の成長の伸びしろを私たち投資家も意識するところですが、だからこそ、いままでと違った角度のグローバル戦略やインオーガニックな戦略がもっとあってもよいのではと考えてしまいます。

 米国のマーケットは可能性が大きいので、トランスバース社で終わりということではなく、スペシャルティの保険会社も常にウォッチリストに入れながら新たな協業ができないかコミュニケーションを図っていきたいと思います。海外はアジアでのビジネスを含め、インオーガニックな視点は持ち続けます。

生損保の多様な事業体によるシナジーを

小池 長年、お付き合いのある関係からあえて言わせていただけると、日本のメガ損保グループの中で、MS&ADグループは株価のバリュエーションが伸び悩んでいます。このあたりの評価と他社優位性をぜひ聞かせていただけますか。

 非常に残念ながら、株価が伸び悩んでいるのは否めません。1つはさきほどの話にあった海外事業におけるMSアムリンの苦戦です。ここはやはり大きかったと思います。この中期経営計画でも国内損保事業以外の収益割合を5割以上に持っていくのが目標で、そのためにも海外事業を伸ばすことが必須条件だと思っています。投資家や株主の方々のご支援を得ながら、しっかりと実績を積み重ねていきたいと思います。
MS&ADグループは、生損保を中心とした多様な事業体が特色です。だからこそ、もっとシナジーを発揮できるはずです。例えば、「1(ワン)プラットフォーム戦略」では三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保の営業以外のミドル・バック共通化を大胆に進め、さらに生産性を上げようとしています。この効果は次の中期経営計画でアピールできる内容になると思います。損害サービスのITシステムの開発やバックオフィスの一体化などを進めている最中で、組織のボリューム感からコスト効果はかなり出せるはずです。

小池 ありがとうございます。株価には大きな関心を持っており、御社の成長を機関投資家としてサポートさせて頂ければと思います。私たちはアナリストをはじめ、こうしたエンゲージメント活動にこれからも注力したいと考えています。当社を含め機関投資家に期待する部分があれば、最後にアドバイスをいただけますか。

 1対1で我々の戦略を説明させていただく機会はとても大切だと思っています。当社のビジネスには、コロナや自然災害、地政学を含め社会情勢と切り離せないインパクトが付きものです。そのため、その年々で変動が生じますが長期的な成長を推し進めているのは確かです。ぜひ、そうした視点でご指摘やアドバイスを我々にいただければありがたく思います。多くのステークホルダーの方々と一緒に世の中の課題の解決に取り組み、レジリエントな社会形成に貢献したいと思います。

小池 貴重なお話をありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

この記事は、投資勧誘を目的としたものではなく、特定の銘柄の売買などの推奨や価格などの上昇または下落を示唆するものではありません。
(掲載日:2022年9月30日)