野村アセットマネジメント

社会的価値を生み出すインパクト投資

コラム第2回│「社会的インパクト(社会的価値)」とは何か?

第2回「社会的インパクト(社会的価値)」とは何か?のイメージ

そもそも「社会的インパクト(社会的価値)」とは何でしょうか、そしてどの様に評価するのでしょうか。米ライス大学教授のエプスタインによると、「インパクトとは、活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化であり、「社会的インパクト」が対象となるのは平等・生活・健康・影響・貧困・安全・正義といった問題であり、環境的インパクトでは環境保護・エネルギー利用・ゴミ・環境衛生・資源の枯渇・気候変動などを含んでいる」としています。コロナウイルスの蔓延による健康に対する懸念やそのワクチン開発は社会的変化ですし、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとする日本政府の目標は、環境的変化といえます。

では、投資を通じてどの様に「社会的インパクト」を生み出すのでしょうか。分かりやすい例として「ワクチン債」が挙げられます。2000年代半ばに開発途上国の予防接種のために、資金の調達機関として国際金融ファシリティ(IFFIm)が設立されました。この機関が発行する「ワクチン債」によって得られた資金は、ワクチン予防接種世界同盟(GAVI)を通じ、開発途上国において感染症の予防接種の普及や、医療システムの強化などのために使用されます。この「ワクチン債」の返済原資は、資金提供を表明した各国政府により20年という長期に渡り手当てされます。

しかし、世界中で多くの人々が直面している感染症対策などを実施するためには、早急にワクチンを提供する必要があります。ワクチンが提供されるタイミングと長期に渡り提供される拠出金の間にある時間的ギャップを解消するために、債券発行により資金を前倒しで調達するというのが「ワクチン債」の考え方です。例えると、100万米ドルの「ワクチン債」を発行することにより「早期に十万人の感染症患者の減少」に貢献する仕組み、といえます。この「十万人の感染症患者の減少」を、「ワクチン債」によって生み出された「社会的インパクト(社会的価値)」であると評価することが出来ます。この債券を購入した投資家(時間的なギャップを解消するための資金提供)は、生み出された「社会的インパクト」を享受するだけではなく、投資の「経済的リターン」も享受することが出来たといえます。

国際金融ファシリティ(IFFIm)ワクチン債

国際金融ファシリティ(IFFIm)ワクチン債

このケースでは、「社会的インパクト」が感染症対策という特定の目的だけのために設定されており、この債券を購入した投資家は、その資金によって生み出された特定の「社会的インパクト」を享受することになります。また、製薬会社がワクチン開発・提供できる例を考えると、投資家が長期に渡りその製薬会社の上場株式を保有する場合では、ワクチン開発・提供により「社会的インパクト」を創出することが可能であるが故に「経済的なリターン」を享受することも可能であるといえるのではないでしょうか。

このように「インパクト投資」は、従来の「リスク」と「リターン」の2軸に加えて、環境問題や社会問題の解決という「社会的インパクト」を加えた3次元評価による投資といえるでしょう。

次回は第3回「「社会的インパクト(社会的価値) 」を測る」

「社会的インパクト」はどのようにして計測されているのか、その方法についてご紹介致します。