国民総NISA活用時代は訪れるか?
~「本家」英国ISAの軌跡から読み解く~

NISAとは、少額から投資ができ、投資した商品が値上がりした場合の利益(譲渡益)や分配金等が非課税となる制度です。2024年から非課税保有期間が無期限となり、非課税保有限度額も拡充されました。そもそもNISAは英国の「ISA」を参考に作られた制度で、Nipponの「N」をつけてNISAと名付けられました。このNISAが日本で今後どのような展開をみせていくのか、活用のコツは?など英国ISAの軌跡から考えていきます。

英国ISAの変遷と利用状況

ISAはIndividual Savings Account(個人貯蓄口座)という制度の略称で、英国では「アイサ」と呼ばれています。国民の貯蓄率向上と資産形成促進のために1999年から英国で導入され、2008年に恒久化しました。
英国ISAは個人が税制優遇を受けながら将来に備えて少しずつお金を蓄えておける口座として浸透し、利用が拡大しています。

英国ISAには種類があります。制度開始当初は預金型と株式型の2種類でしたが、新たにイノベーティブ・ファイナンスISAとライフタイムISAの2種類が加わり、現在では成人向けISAは4種類、年間非課税枠20,000ポンド(約373万円※1)となりました。また子供向けのジュニアISA(年間非課税枠9,000ポンド)も利用可能となっています。

※12024年1月末の為替レート、1ポンド=186.4円で換算。(出所)ブルームバーグ

ISAの種類

種類
成人用ISA
(年間拠出限度額20,000ポンド)
預金型ISA
株式型ISA
イノベーティブ・ファイナンスISA
ライフタイムISA
ジュニアISA
(年間拠出限度額9,000ポンド)
預金型ISA
株式型ISA

(出所)英国歳入関税庁()のデータを基に野村アセットマネジメント作成

英国ISAの口座数及び資産残高は拡大を続けており、2022年4月時点での口座数は2,222万口座※2英国の成人人口の半数近くにのぼり、資産残高は7,506億ポンド※2英国の個人金融資産の約1割を占める規模となっています。

※2(出所)英国歳入関税庁(

種類別のISA残高

種類別のISA残高の図

(期間)2011~2021課税年度

(出所)英国歳入関税庁()のデータを基に野村アセットマネジメント作成

これを現在の日本の人口と個人金融資産に当てはめると、口座数でざっと5,000万口座、資産残高では200兆円規模となります。2023年9月末現在のNISAの口座数約2,035万口座(成人人口の約19%)、NISAでの累計買付額約34兆円※3(個人金融資産の約1.6%)と比べると英国ISA残高のうちNISAに類似する株式型ISAは6割であることを考慮しても、非常に大きな規模といえます。

※3(出所)金融庁「NISA口座の利用状況調査(令和5年9月末時点)」(

英国でISA億万長者の誕生

英国ISA開始から20年以上が経ち、年間拠出総額は預金型ISAを株式型ISAが上回るという変化が起きています。

年間の拠出総額

年間の拠出総額の図

(期間)2008~2021課税年度

(出所)英国歳入関税庁()のデータを基に野村アセットマネジメント作成

また、口座当たりの年間拠出額をみると株式型ISAが預金型ISAの2倍以上の水準(平均の口座あたり年間拠出額:約8,690ポンド、円換算約162万円※1)となっています。英国において変動のある金融商品での運用が支持を広げてきたといえます。

口座当たりの年間拠出額

口座当たりの年間拠出額の図

(期間)2008~2021課税年度

(出所)英国歳入関税庁()のデータを基に野村アセットマネジメント作成

ここ最近、利用者の中で資産残高が100万ポンド(約1.9億円※1)を超える「ISA億万長者」が急増してきていることが話題となっています。それを報じる記事の一つに「ISA億万長者の大半は、長い年月をかけて富を築くという、堅実な方法で資産を形成してきました。彼らは大きなリスクを冒すことなく、数十年にわたり、年間限度枠の範囲で可能な限り多くの金額を毎年投資してきているだけなのです。」との記載※4がありますが、これこそがISAを使うコツなのかもしれません。

※4(出所)ブルームバーグ「Number of Isa millionaires nearly triples in one year」(1 August 2023)

日本政府の資産所得倍増プランとは

2022年11月、日本政府は「資産所得倍増プラン」を決定、その目玉となったのが今回のNISA制度の抜本的拡充と恒久化でした。その中で、今後5年間でNISA総口座数を3,400万口座、NISA買付額を56兆円へとそれぞれ倍増させる目標を掲げ、その目標達成のためにはNISA制度の国民への周知・普及が極めて重要であるとしています。英国のISAが2008年の恒久化後に口座数、残高ともに大きく伸びたという経緯を考えると、政府目標が達成され、さらには、日本の国民総NISA活用時代が訪れる可能性もあるかもしれません。

資産所得倍増プランの目標(2022年11月)

資産所得倍増プランの目標(2022年11月)の図

(出所)内閣官房「資産所得倍増プラン」()を基に野村アセットマネジメント作成

「本家」英国ISAはNISA制度と似通っている部分の多い制度です。NISAをまだ始めていない方はもちろん、すでに利用されている方も、豊かな人生や将来に向けたNISA活用の参考にしてみてはいかがでしょうか。

株式型ISAと2024年以降のNISAの概要

株式型ISA 2024年以降のNISA
対象年齢 18歳以上 18歳以上の日本居住者等※5
口座開設期間 恒久 恒久化
非課税保有期間 無期限 無期限化
投資対象商品 上場株式、公社債、
投資信託、保険等
<つみたて投資枠>
長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託
(金融庁の基準を満たした投資信託に限定)

<成長投資枠>
上場株式・投資信託等※6
非課税対象 利子、配当、譲渡益等 配当、譲渡益等
年間投資枠 20,000ポンド(約369万円※1
預金型ISA、イノベーティブISA、
ライフタイムISAと枠を共有
360万円
つみたて投資枠:120万円
成長投資枠:240万円
非課税保有限度額 制限なし 1,800万円
(成長投資枠は1,200万円まで)

※5ご利用になる年の1月1日現在で18歳以上の方

※6株式は整理・監理銘柄を除く。投資信託は信託期間20年未満、毎月分配型及びデリバティブ取引を用いた一定の商品等は除外

(出所)英国歳入関税庁()及び金融庁()の資料を基に野村アセットマネジメント作成