投資信託を運用している人ってどんな人?
2022年9月
ファンドマネージャーに聞いてみた!
自分の大切なお金を預けるのであれば、信頼できる人に任せたいものです。普段は、なかなか知ることのできない、ミステリアスなファンドマネージャー(運用者)の内面を探ります。運用者は、どのような1日を送り、どのような考え方で運用しているのでしょうか。
今回答えてくれるのは…
日本株運用のプロ!
野村アセットマネジメント株式会社
運用部(株式グループ) チーフ・ポートフォリオマネージャー
福田 泰之
日本株運用調査26年(運用:19.5年、調査6.5年)
Q1.今(注1)の頭の中を教えてください。
このインタビューを受けているのが金曜日の16時なので…30%くらい、週末のことを考えています(笑)。
明日土曜日は、ラグビー観戦に行く予定です。私は早稲田大学出身なので、早稲田のラグビー部が好きですね。
残りの70%は、仕事のことを考えています。
(注1)インタビュー(2022年9月12日)時点
Q2.1日のスケジュールを教えてください。(平日・休日)
〈平日の場合〉
朝起きるのが大体5時ぐらいで、起きてすぐにニューヨークのマーケットをチェックします。5時45分にテレビ東京の「モーニングサテライト」という番組が始まりますので、それまでの間に身支度などを済ませます。そして6時20分くらいまで、「モーニングサテライト」を観ます。出社日の場合は、6時20分位に家を出て、7時10分位に会社に着くという感じです。
出社後のスケジュールを教えてください。
朝9時に東京市場が開きますから、午前中は金融市場の情報のインプットと、それに基づいて売買案件を考え発注するアウトプットに時間を使います。そして午後は個別企業のファンダメンタルズについて調査をするなどのインプットですね。こんな風に時間を使い分けています。
企業の財務状況や業績状況を示す指標のこと。
参考にされているエコノミストはいますか?
今は引退されてしまったのですが、嶋中雄二さん(現 白鴎大学経営学部教授)という方のご意見は傾聴していました。
最近ですと、門間一夫さん(みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミスト)という方のご意見を新聞で時折拝見しています。“常識”を疑う見方をされているので、参考にさせて頂いています。
ルーティンはありますか?
ルーティンは嫌いなんですけど、ゲン担ぎはしますね。通勤の時なんかも、今は(担当ファンドの運用が)順調なので、同じ改札を通るなど…(笑)。
〈休日の場合〉
日本時間の金曜日の夜に経済指標が発表されることが多いので、土曜日の朝は、それを受けたマーケットの動きをチェックします。
休日は、ラグビー観戦やオペラ(特にワーグナー)が好きなので、音楽を聞いたり、実際に観に行ったりしますね。ラグビーに関しては、試合数も少ないので、マニアックですが「J SPORTS」でラグビーの夏合宿の練習試合を見たりもしています(笑)。
Q3.業務において、1番大切にしていることは何ですか?
人と同じ見方をしないことですね。
私はパフォーマンス競争をしているので、平均を上回るには、どこかでアンチコンセンサス(平均的な市場予想とは異なる予想)にかけないといけない。
コンセンサスから外れる判断のポイントはありますか?
あまりにもコンセンサスの説得力がありすぎて、美しすぎる場合には、少し疑うようにしますかね。
具体的なエピソードを教えてください。
最近あったこととしては、アメリカの長期金利と短期金利です。まだ答えは出ていませんが、「長短金利差がマイナスになっているから景気後退だ」という考え方がコンセンサスになっていますよね。
私が長短金利差は景気の先行きを占う上で重要だと初めて知ったのは、2001年から2003年まで通ったビジネススクールでの授業でした。「最良のエコノミストは、イールドカーブの形状そのものだ」と先生から教わったんです。当時は、アメリカの長短金利差を見ている日本株の運用者は珍しく、新鮮な意見でした。
しかし今は、誰もが長短金利差を見ていて、この見方自体がコンセンサス化している。もちろんロジカルに見れば景気後退の可能性が高いのですが、疑いも持ちながら見るようにしています。
実際に投資行動に移してポジションに反映させるかどうかはまた別問題ですが、実際にそうなった時に即座に対応できるよう、少なくともサブシナリオを頭に置いていますね。
Q4.ご自身はどのような性格ですか?
頑固・わがままですかね(笑)!基本的に嫌なことは嫌だと主張するタイプなので、人からもそう見えるでしょうね。
言い変えるとマイペース。人に合わせる位だったら、自分の道を突き進むというか。
それは、ファンドマネージャーに求められる資質なのでしょうか?
資質というか、私はこの職業以外ではやっていけないでしょうね(笑)。メンタル面でいうと、折れてもリカバリーは早いです。辛い状況にあっても、いずれ挽回できると自分に期待し続けているところはありますね。
なぜファンドマネージャーになろうと決めたのですか?
大学時代から、日経新聞を読んでいました。バブル崩壊当時は銀行業界を分析する証券アナリストが活躍していて、「偉そうなこと言えていいな」って思ったんですね(笑)。そこから、自分の職業としても、証券業界や資産運用業界は割と身近な感じがしていました。
大学の3年生位から、「週刊エコノミスト」と、休刊になってしまった「オール投資」という投資雑誌を定期購読し始めて…実際の投資はしていませんでしたが、当時からチャートを見る生活をしていました。
Q5.もしファンドマネージャー以外の職業を選ぶとしたら、何になりますか?
最近だと、スポーツアナリストは興味があります。よくメジャーリーグでデータを分析していますよね。
特に、「勝負強さ」の解明は面白そうだと思います。「勝負強いバッター」って言ったりするじゃないですか。でも確か、どういった理由で「勝負強さ」が発揮されているかは、まだ解明されていないはずです。何かあるはずなのですが…。
そして、これはファンドマネージャーにも言えることではないでしょうか。運用者にしても、野球選手にしても、ずっと成功し続けるプレイヤーはいませんが、高い確率で継続的に優れた成績を残す人がいるというのは事実。私自身が優れているかどうかは分からないですが、これまでのキャリアで勝負どころを間違えてこなかったという自負はありますね。
スポーツのご経験はありますか?
小学校・中学校で野球をしていました。小学校の頃は県大会で優勝して全国大会にも出場するほど打ち込んでいたんです。ポジションはキャッチャーと外野で、2番バッターだったのは良い思い出です。
高校時代は応援部でしたね。高校3年生の時に、母校の野球部が甲子園に出場した際は、応援部として甲子園に行きました。
Q6.今後の目標を教えてください。
会社が今「PROJECT BRIDGE」を掲げていますよね。
私は日本株の運用者として、日本の個人投資家の方に日本株の魅力をアピールしていく責任があります。
「ファンドマネージャーに聞いてみた!株式投資のコツ」でもお話しした通り、次に来る上昇相場は来年に始まるのではないかと考えています。今のままだと、海外資産にばかり投資をしている日本人の個人投資家は、日本株の上昇を享受できない…それってなんだか違うと思うんですよね。
だからこそ、日本株の魅力を訴え、日本株への先入観を取り払い、日本株の上昇相場を外国人の投資家だけではなく、日本人が享受できるように持っていきたい。
私は来年2月で50歳になりますが、この目標にファンドマネージャー人生、最後のキャリアをかけようと考えています。
今回は、ファンドマネージャーの内面についてインタビューしました。
投資信託を購入することは、自分の資産の将来をその投資信託の運用者に預けることでもあります。無数にある投資信託から、どれを選ぶか迷った際には、パフォーマンスに加えて、運用者の考え方や人柄も、信頼して任せるための1つの選定基準となるのではないでしょうか。