投資先企業の見つけ方(後編)
調査のプロに聞いてみた!
このコラムは、「調査のプロに聞いてみた!投資先企業の見つけ方(前編)」の続きです。今回も、食品・日用品セクターの企業調査担当者が実践する投資先企業の見つけ方をご紹介します。
Q4.個人投資家が投資先企業を選定するとしたら、何を調べればよいでしょうか?
投資する期間にもよりますが、中長期で投資される場合は、財務諸表の健全性に加えて、経営戦略や事業戦略の妥当性がものすごく重要ですね。また、企業の戦略は社長など、トップによってかなり変わってくるので、その社長が信頼できるのかを見極めることも大切です。
見極めるのは難しそうですね…。
そうですね、社長の信頼性というのは、企業と対話する中で感じていくものでもありますしね。ホームページに公開されている決算説明資料や統合報告書など、IR情報が充実している企業もありますが、個人投資家の方が見るには量も多く、ハードルが高い可能性もあります。1日約8時間、専門知識を使って企業調査をする時間がある個人投資家はなかなかいないでしょうから…。
とはいえ、一般に公開されている情報も投資判断に活かせますか?
私自身、世の中に出ている情報からも幅広く調べていますよ。たとえば、最近は海外に進出する企業も多いので、現地の情報は自分でとりにいきますね。英語や中国語のニュースサイトを見ます。情報が沢山ある中で信用できる情報を探すのが大変でもあり、経験がものを言うところでもあります。
Q5.業界別に、注目すべきポイントを教えてください。
たとえば、化粧品業界はブランド力が大切ですね。効果に大差がなければ、最後はブランド力で消費者が選択する傾向があるようです。「持っているだけで気分が上がる」というところが大事にされています。ブランド力はマーケティングの積み重ねなので、「商品がどれだけ人目に触れる場所にあり、かつ憧れの存在であるか」といったイメージをいかに作り上げるのかが大事です。それは企業調査の観点でよく見ているポイントですね。
一方、食品業界はブランド力というよりも、商品力自体の魅力をどれだけ消費者に伝えられているかに注目しています。コストパフォーマンスや健康面を重視した商品性など、消費者によって選択のポイントが変わりますからね。あとは、業界によって原価率や利益率なども全然違いますから、何によって利益を創出できているかにも注目しますね。
Q6.個人投資家とアナリストの違いには、どのようなものがありますか?
企業と定期的な対話の機会がある点が、個人投資家との大きな違いだと思います。
四半期に1回の決算説明会は、セミナーというよりはアナリストなどの出席者からの質問会のようなイメージです。個人投資家が質問できる機会は、年に1回の株主総会くらいなので、十分にないのが現状ですよね。
私たちはいろいろな企業から話を伺いますし、各業界の専門家が行なっているセミナーなどにも参加しますので、情報が集約されています。各企業の方よりは、競合も含めた業界全体の情報を持っているので、各企業単体の意見と業界全体の意見の相違に、いち早く気づけるんですよね。
もし相違を感じた時があれば、「同業他社さんは違った見解のようですよ。」と聞いてみるようにしています。そこで相手の企業がもう一度調査してみるのか、自分たちの姿勢を貫くのか、いろいろな対応をとる企業がありますが、半年後くらいに、どちらが正しかったのかが分かります。それを繰り返して経験を積むと、その企業自体の情報収集の力や変化に対応する力が評価できるようになるんです。
企業の方から相談させてくださいと言われることもありますか?
企業から相談頂くこともありますね。「経営していて最近ここに課題を感じているんですよね」「こういうことをして改善しようと思ってるんですけど、どう思われますか?」など、状況が良くないことについても相談されたりします。
企業側は、投資家サイドに「経営が上手くいっていない」などの情報を話しづらいように思えるのですが…
お互いにメリットがあるので、正直に話してくださる企業は多いんですよ。隠していてもいつかは業績に表れて分かってしまいますしね。
企業側のメリットは、投資家目線の意見を得ることができる点などです。投資家であるこちら側のメリットは、もし適切なアドバイスをすることができれば、企業の業績改善につながるかもしれないですし、その動向が事前に分かるので、投資判断に活かすことができます。
また、IR担当者から「社長はこんなこと言っていたけど、実は私は違うと思うのですが、どう思われますか?」と質問を頂くこともありますので、詳しく聞かせて頂いた上で、アドバイスをしています。
コンサルタントのような役割も担っているのですね!
そうですね。目先の株価の話よりも、野村アセットは中長期的な目線で銘柄を見ているので、企業側としても好意的に話してくれる場合が多いです。
Q7.企業調査の面白さはどんなところでしょうか?
やっぱり、情報をいち早くキャッチできるところは面白いと思っています。たとえば「今こういう研究開発をしている」という話を企業から聞いたとします。その研究によって生み出された新商品が魅力的な場合は消費者としても期待したいと思いますし、その内容が上手くいきそうであれば、業績予想に加味しています。最近面白いのが「完全栄養食」。これだけ食べれば1日に必要な栄養素が揃うという食品のことですが、その研究開発を知ってからずっと、早く商品として発売されないかなって待ち遠しく思っていました。
ほかにも、企業調査の面白さを教えてください。
興味があれば、こういった経営戦略は、MBAや学校などで勉強することが多いと思うんですけど、この業務はリアルタイムで常に勉強できる点です。「この企業がこの戦略を取ったらどうなるのか?」といった点について、大体1~2年後には結果に表れてきたりするので、経営戦略が上手くいくか、私が持っている仮説をリアルで検証できちゃうのが楽しいですね。
たとえば企業にとって大きな変化のタイミングは、社長が変わる時だと思うんです。社長が変わってどれくらい時間が経つと変化が現れるのかも企業によって異なるので、企業との対話の中で少しずつ分かるようになってきました。
経験がものを言うのが企業調査部の仕事なので、私の周りは大体20~30年プレイヤーですね。
企業調査していく中で好きになった企業はありますか?
ありますね。どんな企業かというと、経営理念がしっかりされていて、ステークホルダーであるみんなのことを考えられている企業です。顧客第一はとても大事なことですが、投資家や従業員のこともバランスよく大切にされている企業はファンになりますね。
顧客・株主・従業員・取引先といった、企業が経営する上で、直接的・間接的に影響を受ける利害関係者を指します。
Q8.どのようにして、投資信託(ファンド)に関わっていますか?
調査した投資すべき企業をファンドマネージャーにもっていきます。
投資信託は、複数の投資家から資金を集めて、運用の専門家が債券や株式などに投資・運用する金融商品です。ファンドマネージャーは、それぞれ担当の投資信託があり、運用方針に基づいて投資判断を行ないます。投資信託は1人で運用するのではなく、チームで運用することが一般的です。ファンドマネージャーは、担当する投資信託について投資計画の策定や投資先の最終判断を行なう最高責任者です。
ファンドマネージャーとアナリストは、お互いに助け合っていますね。ファンドマネージャーだけではポートフォリオに100銘柄もあったら細かく調べきれないですから、細かいところはアナリストに任せて、一緒に協力しながらファンドを作っています。
「調査のプロに聞いてみた!投資先企業の見つけ方」のインタビューでは、2回に渡り、「投資先企業の見つけ方」についてご紹介しました。
資産運用会社では、運用者だけではなく、企業調査を専門とした部隊が対象企業を徹底的に調べています。資産運用をはじめたいけれど時間がない方、知識や経験がない初心者の方は、プロに任せることができる投資信託も選択肢の1つです。