渋沢栄一の功績から学ぶ投資の視点

2024年7月3日に新しい紙幣が発行され、新1万円札には渋沢栄一の肖像が採用されました。財務省のホームページによると、「(前略)傑出した業績を残すとともに、長い時を経た現在でも私たちが課題としている新たな産業の育成(中略)といった面からも日本の近代化をリードし、大きく貢献した」ことを選出理由としています。※1

※1(出所)財務省「紙幣の肖像の選定理由を教えてください」(

渋沢栄一は1840年に武蔵国榛沢郡(現在の埼玉県深谷市)の農家に生まれました。尊皇攘夷に目覚めたこともありましたが、知人の口添えで一橋(徳川)慶喜に仕えました。幕臣となった渋沢は1867年にパリ万博の使節団として渡欧し、欧州各国の進んだ技術や株式会社制度などの社会・経済制度に触れたことが、その後の渋沢に大きな影響を与えました。明治維新後は、明治政府の大蔵官僚となり、紙幣寮(現在の国立造幣局)の初代トップの紙幣頭も務めました。お札との関わりは、生前から深かったようです。
大蔵省を辞めた渋沢は、日本初の株式会社となる第一国立銀行(現在のみずほ銀行)を設立しました。この国立第一銀行を拠点として数多くの企業の設立・育成に力を入れ、関わった企業は約500社にも及びました。また、東京株式取引所(現在の東京証券取引所)も渋沢が中心となって設立されました。
渋沢は銀行の融資などにより資金を供給する以外にも、数多くの企業に出資しました。渋沢が出資した企業は、現在のみずほ銀行、王子製紙、サッポロビール、東京海上日動などが挙げられ、長きにわたり成長を続けています。※2

※2(出所)公益財団法人渋沢栄一記念財団ホームページ「渋沢栄一年譜」「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」(

*記載されている個別の銘柄については、参考情報を提供することを目的としており、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。

このように日本経済の発展に大きく貢献した渋沢は「日本資本主義の父」と称されますが、真骨頂はその思想にあります。その中心的な考えとして「道徳経済合一」があります。※2これは、企業が利益を追求する際にも道徳が必要であり、国や人類全体の繁栄に対して責任を持つことを忘れてはならないという意味です。「経営の神様」と称されるP・F・ドラッカーも著書や論文でこのような渋沢の考え方や洞察力を高く評価しています。※3
また、渋沢は著書「論語と算盤」で「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。」と説いています。※4つまり今で言うESGやSDGsなどに通ずる持続可能性(サスティナビリティ)の思想を100年以上前から持っていたのですから驚きです。

※3(出所)Peter F. Drucker, "Management: Tasks, Responsibilities", Practices』, Harper&Row, 1974

※4(出所)渋沢栄一『論語と算盤』角川ソフィア文庫(2008年)

このような渋沢の業績や思想は、現代に生きる私たちに対しても示唆に富んでいるように思われます。

渋沢は数多くの企業を設立・育成し、経済の発展に寄与してきました。このような企業の成長、経済の発展には5年、10年、20年と年単位の時間が必要です。投資をする際にこのことを理解し、その成長・発展を捉えて長期的な果実を得るという視点を持つことが出来れば、日々の値動きに目を奪われずにすむのではないでしょうか。これは、日本国内だけでなく、世界に向けた投資にも当てはまります。世界経済の成長を取り込むという意識を持てば、短期的な市場の変動に左右されにくくなり長期的に投資を続けやすくなることでしょう。

もう一つ考えておきたいのは、日本では投資などお金に関する話題について語ることが、品のないこととしてタブー視されがちな点です。しかし、渋沢は「利益を追求せず、ただ道徳に偏ると国を滅ぼす原因となり、逆に道徳を欠いた経済活動も長続きしない。利益を求めつつ、道徳を重んじることで、初めて国家は発展し、個人も豊かになる」と説いています。※4

これを投資に当てはめれば、自分の利益を追求しながらも、日本や世界の企業・経済の発展を支え、その成長に貢献するという発想を持つということになります。このような視点を持つことが出来れば、私たち一人ひとりの投資が持続可能な経済の未来を築く力となり得ます。

渋沢栄一を見習い、未来を創る投資を始めてみてはいかがでしょうか。